口約束による死因贈与
口約束による死因贈与
前回、亡くなった方(被相続人)が、相続人ではない長男の嫁に「遺産をあげる」と口約束した例を挙げました。
ところで、「遺産をあげる」とは言っていたけれども、それが口約束だけだった場合、長男の嫁は遺産を受け取ることができるのでしょうか?
相続人ではない者へ遺産を与える方法には、「遺言で財産を与える(「遺贈」といいます)」以外に、「死因贈与」による方法があります。
これは贈与契約の一種です。
贈与とは、財産をあげる人(贈与者)が「自分の財産を無償で(ただで)あげる」という意思表示をし、財産をもらう人(受贈者)が「もらう」という意思表示をして、お互いの意思が合意することによって成立します。
必ずしも書面による必要はなく、口頭でも成立します。
こう書くとややこしそうですが、私たちの通常の生活で贈与はよくあることです。
例えば自分の使わなくなったボールペンを友人に「あげるよ」と渡して友人が「ありがとう」と受け取ればこれで贈与があったことになります。
そして「死因贈与」とは、贈与者が「死亡したら」という条件付で財産を受贈者にあげるという贈与の方法です。
長男の父(贈与者)は、「自分が死亡したら、自宅である土地と建物を長男の嫁(受贈者)に贈与する」こととし、長男の嫁(受贈者)はこれに同意する、といった例が挙げられます。
遺贈と死因贈与との違いは、遺贈が遺言を書く人(遺言者)の意思のみでよく、もらう人の合意を必要としないのに対して、死因贈与はもらう人の合意が必要であるという点です。
さて、冒頭の話に戻ります。
長男の父は口約束でも「遺産をあげる」と言っていた訳ですし、長男の嫁は、もらうつもりであったでしょう。
この場合、合意があると考えられますので、死因贈与は成立しています。
しかし、問題は書面などが残っていなかったことです。
他の相続人は「そんな話は聞いていない」と言うでしょうから、「言った」「言わない」の水掛け論になる可能性が極めて濃厚です。
このケースでは長男の嫁が本当に死因贈与のあったことを立証する必要があるものと考えられます。
紛争となるとかなりのエネルギーが必要ですし、さらに費用がかかることもあります。
この様なことのないように、安易に他人に「遺産をあげる」などと言わないこと。
また本当に他人に遺産をあげたいのなら、遺言または書面による死因贈与契約書をしっかりと作成しておく必要があります。
福井 一准
(税理士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、日本FP協会CFP®認定者、宅地建物取引主任者試験合格者)
昭和38年大阪府生まれ。横浜国立大学経営学部卒。税理士事務所等へ勤務後、平成2年税理士登録。勤務中は法人の財務・税務のほか、相続税や不動産譲渡などの資産税税務も数多く担当。 平成5年福井一准税理士事務所として独立開業。税理士事務所所長として税理士業務や相続を中心としたFP業務を行うとともに、FP資格認定校にてFP試験「相続・事業承継設計」の兼任講師も務める。 【ブログ】いちじゅん税理士の事務所通信
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